1025製作記
十年ひと昔といいますが、もう15年近く前の夏の暑い日 大学の夏休みを利用して欧州に汽車見旅行に出かけた私は、オランダの干拓地の中を走る保存鉄道に立ち寄りました。そこには愛らしい緑色のBタンクが、マッチ箱の様な客車を牽いてのんびりと走っていました。このホールン・メーデンブリック鉄道のBタンクといっても、あまり馴染みはないと思いますが、KATOのポケットラインシリーズのSLのプロトタイプといえば御存じの方も多いと思います。すっかりその機関車に惚れ込んだ私は、帰国してから日本に同じクラスの機関車がないか本のページを繰ったところ、金田茂裕氏の本の中からアルノルト・ユンク製の70型蒸機を見つけ出しました。そしてスタイルとしてはむしろ同メーカーの1025型の方が好ましく思えたので、これをプロトタイプに選びました。その後1025のスケールモデルの制作にかかったのですが、そのシリンダーの複雑な形をどう工作するか、車体幅の処理をどうするか考えているうちに嫌気がさして、サイドロッドとフレームができた段階でお蔵入りとなり、その後15年近くも押入の中で眠っていました。昨年ある模型クラブに入会し、そこでタンクロコの競作の企画が持ち上がったのを機会に、5年程完全に休止していたモデルの制作を再開することにし、その競作に参加すべく、長い間午睡を貪っていたこの下回りを引っ張りだしてきました。そして出来上がったのがこの機関車です。
設計コンセプト
15年前に制作開始したときは、スケールモデルを目指しましたが、今回は基本的な寸法は1025に準じていますが、ちょうど発売されたエコーモデルの小型蒸機用パーツを用いて気軽にまとめることにしました。また他のドイツなどの保存鉄道や鉄道博物館の小型機関車の写真を見ながら気に入ったスタイルに仕上げました。サイドビューは、金田氏の1025型の図面に準じていますが、奇しくも今野さんが、TMS571号P.60に図面を出されたCタンクにきわめて近い寸法となりました。したがってこの機関車は1025のスケールモデルではなく、ドイツ系欧州型の小型蒸気機関車として見ていただきたいと思います。車体幅はスケールでは24mmですが、16番では到底この寸法では収まらず、シリンダー廻りもエコ−のパーツを使用し、シリンダー中心間隔は無理をせず25mmとした結果、車体幅は28.2mmとなりました。この機関車は英国型などのシリンダー側面がそのまま上にのびているタイプと違い、シリンダーを横に出張らせることにより車体幅の問題はクリアーできそうですが、バルブギアー特に加減リンクをサイドタンクから突出させるわけにもいかず、ここがボトルネックとなって車体幅を決定せざるをえませんでした。やはりこの点では既にゲージで3.5mm広がっていますので、いくらディフォルメして、バルブギアーを左右に圧縮したように作っても、スケールどおりの車体幅にはなりません。とくにこのような小型機では厳しいものがあります。前回挫折した原因のひとつはここにあった訳で、やはりこのクラスの機関車でスケールどおりプロポーションということになると、縮尺とゲージのあったファインスケールのゲージを採用せざるを得ないようです。標準軌から狭軌まですべてを飲み込んでしまう16番のアバウトさは大きな魅力ですが、またその限界を知りながら模型化設計をすすめることが重要と思われます。自分自身は今後も16番をメインに模型制作をすすめるつもりですが、もしファインスケールの車両を手がけるとすれば、13mmを否定する気はありませんが、やはり国際規格に則ったHOj(1/87
12mm)かSn3-1/2(1/64 16.5mm)を採用したいと思います。というわけで、この機関車は1025のスケールモデルではなく、ドイツ型の小型機関車として見ていただきたいと思います。
下回り
フレームは前回の制作時には、集電ブラシのことをあまり考慮していなかったので作り直しとなりました。またイコライズし三点支持としました。C型の場合は通常一軸を中央で支え、他の二軸を左右で支えるのが常道ですが、この機関車ではイコライザー支点間距離が18mmと極端に短くなり機関車全体が不安定になることが予想されますので、第一動輪を中央で支持し、第三動輪はフレームに固定、第二動輪はバネ可動とする変則的な方式しました。そのためギアボックスは設けず、フレームに直接モーターを固定し第三動輪を駆動しています。集電ブラシは、フレームに開けた穴からすべての動輪裏側に燐青銅線のブラシを当てています。
シリンダーブロックは引抜材の真鍮肉厚アングル(6X12X6)にエコ−のパ−ツ類をとりつけて構成しました。なおバルブギアーはフルワーキングとはせずに、バルブロッドとラジアスロッドは固定としました。ラジアスロッド、リターンクランクのみは洋白の板材から切り出しましたが、あとはすべて線材からの削り出しです。同じ洋白でも線材の方が粘りと腰があって曲がりにくいので細いロッドには線材の方が適しているようです。
動輪は珊瑚製10.5mmで、一旦バランスウェイトを削り取ったのち、旋盤で挽いたドーナッツ型の素材から加工したウェイトをエポキシ系接着剤で固定してあります。動輪のバランスウェイトを削るのにモーターツールなどを使うとタイヤに傷をつけてしまうことが多いようですが、今回はタイヤに傷をつけないようにビニールテープをまいて動輪を車軸から抜かずに組み立てたまま、旋盤の三爪チャックに加えて手回しでバイトをあてて削るとうまくいきました。
10.5mm動輪を使用したのにもかかわらず動輪間距離を12mmとしたため、0.6mmあるフランジやガタのことをあまり考慮していなかったため、フランジ同士が接触する場合も出てきてしまいました。実物は第二動輪はフランジレスです。しかし通常私は模型でフランジレスとすると動輪経が違うように見えて嫌なのでフランジレスにはしないのですが、この機関車では第二動輪はフランジレスにせざるを得なくなりました。そしてフランジを削ったため露出したタイヤの真鍮地肌は、簡易メッキ機で再メッキしました。
今回はスイスミニモーター社製の10mm径16mm長のコアレスモーターを搭載しました。また小型コアレスモーターを採用することにより、その低速からトルクのある回転特性のためスムースな走行が得られることはいうまでもありません。その上コアレスモーターは従来のモーターと比べて消費電力が格段に少ないため、動輪の集電ブラシを目立たないように小型化することが可能です。つまり接触面積が小さく、圧力の弱いブラシで十分だということになります。小型車両にコアレスモーターを搭載するのは形態・走行性能の両面で大型車両とはまた違った面がありそうです。
さらにスムースな走行性を確保するためには、車輪を線路に密着させて車輪踏面のスパークによる汚れを最小限に留めることが重要ですが、この機関車ではイコライザー可動により密着性を改善したことと、コアレスを搭載して低消費電力を実現したことでかなり良好な結果を得られたのではないかと思っています。
車体は、主に0.4mmの真鍮板から切り出し、断面の厚さが見えて気になる部分の一部に洋白の0.3mmを使用しています。キャブ開口部や窓の縁どりは、板の貼り合わせではなく断面に帯板を貼り付けるという私の2800と同じ方法をとりました。線の細い欧州型にはこれがよく似合うようです。またスティームドームやサンドドームはエコ−のパーツがほぼスケール的にぴったりだったのには感激しました。煙突はジャンク箱から拾い出してきたもので、おそらく珊瑚「なんさつ」旧製品のものではないかと思います。煙室戸は車輪からドリルレースしました。煙室部はボーラーにハンダで固定せずねじ止めとし塗りわけにそなえました。キャブ屋根も同様に取り外し式としてあります。プロトタイプでは、安全弁はスティームドーム上に汽笛はキャブ天井についていますが、このあたりはフリー化してエコ−のパーツでキャブ前のボイラー上に設けてあります。ボイラー横の逆止弁は、ウィストのパーツを加工しました。キャブ内にはエコ−の小型蒸機用バックプレートをモーターに当たらないように下部を切り取って取付け、キャブインテリアセットの一部のパーツやウィストの加減弁ハンドルを取り付けました。
可動式バッファーを採用することにより、形態を崩すことなく連結間隔を短くすることが可能ですが、新しい問題も生じてきます。その一つがバッファー同士の接触を介してショートしてしまうことです。単機で付随車を牽く場合はあまり問題が生じませんが、重連にするとこの問題が生じてきます。今回はこの問題を解決するため端梁をプラスティック材から作成し、バッファーを機関車本体から絶縁しました。具体的には田宮の5mmスチロール角棒から端梁を削り出し、だるまやの可動式バッファーを取り付けてあります。
塗装は、機関車本体は、山手線のウグイス色を半艶として吹付けで塗りました。煙室・キャブ屋根・下回りは黒です。窓やキャブの縁取りは黒でおこない、手すりや砂撒き管にも黒を差しました。また端梁には赤をいれました。最後に全体をエナメル系のタミヤカラーを薄く溶いた物を使って、ウェザリングしたところ、落ち着いたようです。
ご参考までに使用パーツは下記のとおりです。
(エコ−)煙室戸ハンドル,スチームドーム(B),サンドドーム(A),砂撒管元栓,汽笛/安全弁座,汽笛,安全弁,キャブ天窓,タンクハッチ,尾燈掛(B),シリンダーブロック,シリンダー前後蓋,バルブガイド,ドレンコック,クロスヘッド,ブレーキシュー,ハンドブレーキテコ軸受, 小型蒸機用バックプレート、 キャブインテリアセット
(珊瑚)10.5mm動輪,なんさつ用煙突(旧製品)
(ウィスト)英国型逆止弁、英国型加減弁ハンドル
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