Tips & Bugs(雑記帳)

33.狂気(狭軌)としての1/87 12ミリ ゲージ (2002/1/1)

-なぜ日本型1/87 12ミリ ゲージを私がはじめたか?-


私の好きな作家の故司馬遼太郎さんは、鶴見俊介さんとの対談の中で次のように述べておられます。

思想というのは、本来完璧な形では科学の結晶体を取出すような作業が必要なものであって、なによりも論理的に完璧なものでなかったらいかんと思うのですよね。つまり、地についていちゃいけない、本来空中に浮いているものであって、地上に少しでもくっついていたら、その思想は結晶がどこかで崩れていると考えていい。

その思想が政治思想である場合、それを現実化したいという欲求が生まれる。それを地上のものにしたいという本来無理な要求が出るときに、個人の肉体の中で狂気が生まれるわけです。生まれざるをえない。さきほどもいったように、思想は本来的に、現実化をいとうものですから、その矛盾をやってのけるためには、ナマの人間その人の一大狂気、それが触媒になるわけでしょう。要するに気違いさんにならなきゃしょうがない

「歴史の中の狂と死 司馬遼太郎 鶴見俊介 (朝日ジャーナル71年1月1・8日号)」より引用

という話で、これから幕末の吉田松陰なんかに話が続いていくわけです。

鉄道模型の世界でいうとまさに1/87 12ミリ ゲージが、この狂気(狭軌)なのではないかと思います。

まさにKさんが、TMSに掲載された「冬物語」という記事で日本型1/87 12ミリゲージを提唱されたときには、日本型には16番(1/80 16.5mm)や13ミリゲージ(1/80)があるのに訳のわからんことをいうおかしな人(狂人)がいるものだという印象をもちました。このゲージについてはその後M.K.氏が、ご自分の経営される雑誌でキャンペーンを展開された訳ですが、その展開方法が、あまりにも高級志向、マニアックであったため結局不発に終わり、細々と続いてきたという印象を個人的には持っていました。結局このゲージを最初に提唱されたK氏も自ら創業されたJ社が挫折する結果となり、まさに幕末に志半ばで討死にしていった志士に擬するのは、大げさでしょうか?

ところがまたY.I.氏が、今度は完成線路を採算を度外視した価格でひっさげて参入して来られ風向きが変わってきました。私も最初はBEMOの車両を走らせるつもりでこの線路システムを購入したのですが、これでサブロクの車両を走らせたいという欲求に駆られました。これは私だけではなくまわり友人でも数人、この線路をみて日本型1/87 12ミリを始めようという人がいます。

ちょうど小樽に行って、静号をみて、これはどう見ても1/80で16.5ミリの線路の上にのる車両ではないなというイメージをもっていたところなので、このゲージの上で明治時代の北海道の車両を走らせることにしました。日本型1/87 12ミリで普及品の価格帯で発売されていた唯一の蒸機のキット、流山のサドルタンクが、最初は北海道にいたことも、これを決心させることとなりました。またご存じのように明治の北海道の鉄道は、何でっ3フィートではなくサブロクなの?と疑問を感じさせるくらい、アメリカのナローゲージシステムをそのまま持ち込んだものであったので、コロラドナローの製品が流用できるだろうという下心があったのも否定はしません。

というわけでHOJCに入会させていただき、実際にHOn3のアメリカ型モーガルを12ミリに改軌してしまいました。スケールとゲージのあったファインスケールの場合、日本型1/87 12ミリは、いつでも1/80 13ミリと比較されるわけですが、私が日本型1/87 12ミリのいいと思う最大の点は、良い意味でも悪い意味でも日本型16番(1/80 16.5mm)の影響を引きずっていないということです。このゲージ自体は理論的には完璧だと思います。(実物がメーター法で作られている車両をなぜインチ・スケール法で模型で作らねばならないか?という批判はあると思います)具体的には13ミリの場合従来のHOの車輪、線路の規格をそのまま3.5ミリだけ狭くした規格とスパイクモデル・プロトサーティーンのグループが主張されるファイン規格が混在して、混乱しているように感じています。その点日本型1/87 12ミリは、HOJCなどが最初から規格に関与してこられたためか、この点での混乱がないように思います。また友人のN君の意見は、13ミリにすると、これまで持っていた日本型16番(1/80 16.5mm)の車両を少なくとも箱物はすべて改軌しないといけないような気がするが、日本型1/87 12ミリだと日本型16番とはまったく違ったスケールなのでその心配がないからいいということです。

というわけで、これからは日本型(私の場合明治・大正の古典型ですが)に関しては、北海道型のみは1/87 12ミリ、それ以外は1/80 16.5mmという2足の草鞋を履くことになりそうです。

*ゲージの呼称については諸説があるようなので、日本型16番以外は、スケールとゲージを併記して、特定の呼称を避けました。

**もちろん私は、欧州型のメーターゲージは1/87 12ミリでやります。


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